松岡正剛の旅考長濱 3|近江孤蓬庵

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緑雨に籠る近江孤蓬庵。染みいる水に身を溶かす。
 
 安藤家に別れを告げ、車は北東へ向かう。国友鉄砲の里を経て、姉川堤防からさらに北へ。一行が緑田の美しい広がりを堪能した頃、車は次第に山の奥へ包まれていく。歴史の表舞台から身を隠すようにひっそりと佇む孤蓬庵。小堀遠州の菩提を弔うために、江戸時代初期に二代目城主・小堀宗慶が開山した臨済宗大徳寺派の寺である。江戸時代後期に小堀家改易とともに衰え、その後100年間放置されていた。伊勢湾台風の被害を受けながらも、昭和40年、小堀定泰住職が再建。無住の手つかずが幸いし、当時の趣きそのままに「遠州好み」の庭が蘇り、昭和34年に滋賀県史蹟名勝に指定された。
 「孤蓬庵を訪れると、しばし時間を忘れる」そんな對馬佳菜子(観音ガール)さんの仕立てと導きにより、孤蓬庵との対話が始まる。
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田根地区は山々に囲まれ、山裾に集落があり、広がる田んぼにはコウノトリも飛来する。
近江孤篷庵の小堀泰道住職が出迎える。
門をくぐり本堂へ伸びる参道は緑でそっと本堂を包み隠す。
 松岡さんの傍で孤蓬庵の小堀泰道住職は庭の隅々まで説明してくださった。「孤蓬庵の庭は、石組や樹木は当時のまま、遠州の想いを深く後世に残すように職人が自然とともに造りました。庭の原点として知られています。池泉庭園は琵琶湖を模した池を中心として作られており、伊吹山から水が流れてくるという近景を味わう庭で、水に潤う生活は文化につながるという幸せを教えてくれます。対照的に枯山水庭園は遠景を味わう庭です。<孤蓬>は粗末な一隻の舟という意味で、それ表すように舟石が置かれています。この庭には山、海、舟があり、我々の生活そのものを表しています。舟石は西に向かって漕ぎ出すように置かれている、それは西方浄土、西の美しい世界や理想をもとめて生活をしているということ。この庭を通して大きな世界を表現していると感じています」と。

本尊釈迦如来を前に小堀泰道住職の話に耳を傾ける松岡正剛さん。

山裾が迫る池泉庭園は近江の全景をあらわす。
松岡 「とてもいい趣味の庭。池の奥にあるくぼみ、その井戸のあたりの趣向といい、塩梅さがいい。新しいせいか、昔を偲んだせいか、なんともいえない良さがある。やりすぎる大胆も良いが、傍若無人な自然体もよい。いつか桃山をカタチにしたいと思っている。いったい桃山は何をしたのか。近江は戦により失ったものも多いが、それと引き換えに何かを得ているはず。近江はプラスとマイナスを持っている。桃山に戻さないとわからない。川瀬敏郎の花、楽吉左衛門の茶碗、長浜の何かでいつか遊びたい。」
舟石の行先は西方浄土であり、またこの方角には琵琶湖がある。
小堀 「私は野草が好きなんです。いまはイカリ草、初秋には、イブキリンドウと擬宝珠(ギボウシ)が一面に咲きます」。
松岡 「20年程前、伊吹山で“薬草サミット”が開催されて基調講演をしました。こちらも伊吹山とつながっていますね」。
四季折々の野草がひと時の表情をみせる。
 「神の庭」が「神遊びの庭」であるように、日本の庭はその本質を最初から「遊び」においてきた。「遊び」とは広い意味におけるパフォーマンスである。そのアソビがやがてスサビに変り、さらにサビに至ったとき、庭も近世を迎えることになる。それは「数寄の庭」の誕生であった。一人のアーティストの好みが、ついに庭にまで及ぶ時代だった。千利休の茶数寄が利休好みとして普及したように、小堀遠州の庭数寄は遠州好みとして、江戸初期を駆けめぐった。
『アートジャパネスク 日本の美と文化』(講談社)
第13巻 庭園と離宮「雪月花に遊ぶ」
小堀家代々の墓所へ足を運ぶ松岡正剛さん。
草木の奥に見える本堂は自然との一体となり、人と自然の調和を思わせる。
 時折の土砂降りの雨音は、内にある俗塵を洗い流すかのようだ。庭の貝多羅葉樹(ばいたらようじゅ)が庵の声に耳を傾けていたのはいつの頃からか。
帰り際、ここ田根地区が輩出した「五先賢」(※注1)の話を住職から聞き、松岡さんは唸る。「海北友松もちゃんと蘇っていない。誰もやっていないことをあっという間に華のようにやってみせた。今の日本は安全、コンプラばかりでなにもできていない。織部は全滅したが、遠州は残った。ここには何かがあるはず。なにか図りごとをしてみます。」やはり、その鍵穴は桃山か。
 
(※注1)
五先賢:長浜市田根地区ゆかりの5人の先人のこと。相応和尚(比叡山延暦寺の千日回峰行の創始者)、海北友松(聚楽第に描いた安土桃山時代の画人)、片桐且元(賤ヶ岳七本槍の一人で秀吉政権中枢の武将)、小堀遠州(江戸時代初期の大名で総合芸術家)、小野湖山(明治の三大漢詩人)
 
 
 
旅考日時 |2022年4月15日(金)
 
旅考人  |松岡正剛
近江ARS |福家俊彦、福家俊孝、川戸良幸、村木康弘、三浦史朗
      横谷賢一郎、加藤賢治
 
仕込み衆 |竹村光雄、冨田泰伸、對馬佳菜子、橋本英宗、川瀬智久
仕立て衆 |中山雅文、和泉佳奈子、中村裕一郎、中村碧
 
 
文章   |渡辺文子
写真   |新井智子
写真説明 |對馬佳菜子
 
収録   |伊賀倉健二、亀村佳宏、小川櫻時
 

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