松岡正剛の旅考長濱 2|安藤家
北国街道の「昔と今」をそぞろ見て魯山人の宇宙を訪ねる。
琵琶湖の東岸を北に上がって、越前そして加賀に通じる北国街道。かつては、商人や旅人、そして武将が行き交う重要な街道だった。とくに長浜は、湖上交通の拠点だったので、宿場町として大いに栄えていた。
その北国街道沿いに室町時代から長浜に移り住んだ旧家「安藤家」がある。虫籠窓や紅殻格子など、かつての風情が残っている。離れには、前代未聞の芸術家・北大路魯山人の代表作とも言われる「小蘭亭」がある。安藤家に長期滞在した時につくられたそうだ。松岡さんは、近江ARSメンバー・竹村光雄さん(長浜まちづくり・プランナー)と冨田泰伸さん(冨田酒造・十五代)の案内により、魯山人の小宇宙をひととき遊んだ。
魯山人をどう語るか。どう語れるか。これは日本の数寄文化をめぐる一種の踏み絵のようなものである。魯山人についての一言二言の感想を聞いただけで、たちまち当人のお里が知れるようなところがあるからだ。なぜ魯山人を語るときわどいことになるかということが、そもそも魯山人の遊芸の本質なのである。
松岡 「北国街道は久しぶりだなぁ。子供の時を思い出す。」
松岡 「重森三鈴や小川治兵衛の影響が強い。そこを魯山人が洒落てモダナイズした。小蘭亭全体が曲水に浮かぶ舟のように作られている。」
松岡 「他の人には真似はできない。襖も天井も床も竹垣も、ここまでしなくても良いというくらい、一つ一つに相当アイデアを込めている。」
松岡 「小蘭亭はなにかをしたくなる。魯山人はお題の設定が上手かった。いまの時代はコンセプトで終わっている。地域文化にもお題が必要だ。」
近江ARSの竹村光雄さんは、魯山人の「遊芸の本質」の行く来し方を考え、安藤家の現在を預かっている。「魯山人は工芸とデザインを分けない、デザインとアートを分けない。僕はこのような考え方の方が日本らしいと思う」という松岡さんの見方と言葉を手すりに、魯山人との距離をわずかに近くする。この圧倒とどう対峙するか、どう閉じて開くか。湖北のお題づくりはこれからだ。
旅日時 |2022年4月14日(木)
旅考人 |松岡正剛
近江ARS |福家俊彦、福家俊孝、川戸良幸、村木康弘、三浦史朗
横谷賢一郎、加藤賢治
仕込み衆 |竹村光雄、冨田泰伸、對馬佳菜子、橋本英宗、川瀬智久
仕立て衆 |中山雅文、和泉佳奈子、中村裕一郎、中村碧
文章 |渡辺文子
写真 |新井智子
写真説明 |竹村光雄
収録 |伊賀倉健二、亀村佳宏、小川櫻時
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