近江ARS・百色|小鮎を追いかけっこ
ちと追へばちゝと隠るゝ小鮎かな ―――民部里静
琵琶湖の鮎は10センチ程度と小ぶりであるため「小鮎」と呼ばれる。
琵琶湖では海に比べて食べ物に限りがあるため大きく成長しないのだ。
7月のとある朝5時、夜に大切な集いを控え、土地の味でもてなしたいと小鮎を求めて川に入ったのは、長浜に根を生やす竹村光雄をリーダーとする四人組だ。まだ目覚めぬ町の路地を進み、米川に降りた。足首にひんやりと水草が触れる。静かな光景のなか、軽快な泳ぎが目に飛び込む。朝日の眩しさに目を細めながら、竹村が狙いを定めて投げ網を打つ。場所を変えて放つこと数回。一時間ほど試しただろうか。一向に手ごたえがない。
鮎は、人間よりも一枚も二枚も上手だ。網の気配を察知した瞬間、岩陰に身を潜め、網が通過するのを待つ。何度となく鮎釣りを経験した竹村でも、川に住まう鮎と即座に太刀打ちできるわけではない。
日はすっかり昇り、じりじりと肌が焼けはじめる。一行は作戦変更して長浜の町を出て、姉川での再挑戦を決め込む。伊吹山の万緑と青空に見守られ、草を掻きわけ、土手を降りる。町中と違い、川幅が広く、流れも速い。浅瀬に入り込み、竹村が満を持して投げ網を打つ。数秒の長い時間が過ぎる。手繰り寄せた網が小刻みに動く。10センチほどの小物体が跳ねていた。
その夜、米川のほとりにある「湖北暮らしの案内所どんどん」では、あたたかい明りが灯った。小鮎の唐揚げと湖北の銘酒「七本槍」、笑顔も会話も、いつまでも尽きない。
近江ARS |竹村光雄、中山雅文、和泉佳奈子
文章 |阿曽祐子